文字の読み方
- 歴史的仮名遣い
文語は一部の例外を除いて、1946年まで用いられていた歴史的仮名遣いを用いて表記されます(例外は聖公会から出ている『アポクリファ』(旧約外典)で、現代仮名遣いに改められています)。歴史的仮名遣いは一見難しそうですが、現代仮名遣いとの違いはごくわずかであり、慣れてしまえば表記と発音の違いを意識せずにすらすら読めるようになります。むしろ、文語を現代仮名遣いで書かれるほうがわかりにくくて面食らうかもしれません。
- ゐ
ワ行の「い」。もともとはwi(ウィ)のような発音だったのでしょうがいまでは「い」と読みます。カタカナは「ヰ」です。
- ゑ
ワ行の「え」。もともとはwe(ウェ)のような発音だったのでしょうがいまでは「ゑ」と読みます。カタカナは「ヱ」です。なお、文語訳聖書ではカタカナの「ヱ」には特殊な用法があります。それは次をごらんください。
- ヱの特殊用法
文語訳聖書ではヱホバ、ヱレミヤ、ヱルサレムなどのように、ye(je)つまりイェという音の訳に用いられています(ヱルサレムだけはいまの文語訳聖書ではエルサレムとなっている)。いずれにせよ「エ」と読んでおけば十分なのですが、イェの音訳に使われているということを頭においといてください。
- を
ワ行の「お」。もともとはwo(ウォ)のような発音だったのでしょうがいまでは「お」と読みます。カタカナは「ヲ」です(筆順は「ニ」を書いてから「ノ」です。決して「フ」を先に書いてはいけません)。今でも「本を読む」というふうに助詞として、つまり他の語のお尻にくっついて出てきますが、文語では語頭などでも平気で出てきます。ですから「を」が出てくるとついついそこで区切ってしまいます。たとえば「語りをへ給へるとき」をついつい「語りを/へ/給へる/とき」のように区切ってしまい、「へ」って何だ?ってことになってしまいますが、正しくは「語り/をへ(=終へ)/給へる/とき」です。こういう語頭語中の「を」に十分注意してください。
- ぢ・づ
現代の日本語では「ぢ・づ」は「じ・ず」と発音の区別がないため(古代や方言では区別あり)、現代仮名遣いではできる限り「じ・ず」に統一し、「ちぢみ・つづみ」のような連濁や、「名+つく」→「名づく」などのような濁音化など、非常に限られたところでしか「ぢ・づ」を使いません。ところが文語では「なんぢ(汝)・出づる」などいっぱい出てきます。もっとも、自分で書き分けるならともかく、読むだけなら「じ・ず」と読んでおけばいいので、読むだけ派としてはあまり意識しなくてよいかもしれません。
- くわ、ぐわ
「くわ・ぐわ」は「カ・ガ」と発音します。字音語のルビにしか登場しません。文語聖書には出てこないと思いますが、「くゑ・ぐゑ」は「ケ・ゲ」と発音します。
- 語頭以外のハ行
語頭以外の「は・ひ・ふ・へ・ほ」は「ワ・イ・ウ・エ・オ」と発音します。(例)かは(川)、言ふ、とほり(通り)。
- あう、かう……
「ア段音+う」はオ段音の長音として発音されます。ローマ字書きして、au→ô(オの長音)と書いたほうがシンプルかもしれません。語頭以外の「ふ」は「う」という法則と組み合わせれば、「ア段音+ふ」も同様です。念のためすべて列挙すると、表記 | あう・あふ | かう・かふ・くわう | さう・さふ | たう・たふ | なう・なふ |
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読み | オー | コー | ソー | トー | ノー |
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表記 | はう・はふ | まう | やう | らう・らふ | わう |
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読み | ホー | モー | ヨー | ロー | オー |
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表記 | がう・がふ・ぐわう | ざう・ざふ | だう・だふ | ばう・ばふ | ぱう・ぱふ |
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読み | ゴー | ゾー | ドー | ボー | ポー |
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表記 | きやう | しやう | ちやう | にやう | ひやう |
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読み | キョー | ショー | チョー | ニョー | ヒョー |
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表記 | みやう | りやう | |
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読み | ミョー | リョー | |
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表記 | ぎやう | じやう | ぢやう | びやう | ぴやう |
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読み | ギョー | ジョー | ビョー | ピョー |
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- 例外「あふ=アオ」
前項の例外として、「あふ」を「アオ」と読む語が若干あります。あふひ(葵)、たふる(倒る)、あふぐ(扇ぐ、仰ぐ)を覚えておけばいいでしょう。
- いう、きう……
「イ段音+う」はユーと発音されます。ローマ字書きして、iu→yûと書いたほうがシンプルかもしれません。語頭以外の「ふ」は「う」という法則と組み合わせれば、「イ段音+ふ」も同様です。念のためすべて列挙すると、表記 | いう・いふ | きう・きふ | しう・しふ | ちう | にう・にふ |
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読み | ユー | キュー | シュー | チュー | ニュー |
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表記 | ひう | りう | ぎう | じう・じふ | びう |
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読み | ヒュー | リュー | ギュー | ジュー | ビュー |
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もっともこの項は、要するに「ュ」を入れて読めということであり、そのまま読もうとしても自然とそうなるでしょうから、あまり意識する必要はないかもしれません。
- えう、けう……
「エ段音+う」はヨーと発音されます。ローマ字書きして、eu→yôと書いたほうがシンプルかもしれません。語頭以外の「ふ」は「う」という法則と組み合わせれば、「エ段音+ふ」も同様です。念のためすべて列挙すると、表記 | えう・えふ | けう・けふ | せう・せふ | てう・てふ | ねう |
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読み | ヨー | キョー | ショー | チョー | ニョー |
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表記 | へう | めう | れう・れふ | |
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読み | ヒョー | ミョー | リョー | |
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表記 | げう・げふ | ぜう | でう・でふ | べう | ぺう |
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読み | ギョー | ジョー | ビョー | ピョー |
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- そのまま読むほうがわかりやすい場合
「会ふ」は、上記原則からすると「おう(オー)」と読むべきということになりますが、現代の口語ではアウと読んでいるのでそう読むほうがはるかにわかりやすいです。こういうときは、文語としての正式な読み方は、原則を貫いた「オー」なのですが、実際には「アウ」と読んでも許容されると思います。
- 濁点
活字になってからは濁点、半濁点は、必要な箇所には必ず打たれるようになりましたが、もともとは濁点は必ずしも打つ必要はなく、読み手が文脈から判断して補うべきものとされていました。ですから明治期の出版物には、たまに濁点の使用がイイカゲンなものがありますから注意してください。
- 小さいカナ
ひらがなもカタカナも、もともとは小さいかななどというのは存在せず、すべて同じ大きさで書いていました。「しや」をシヤと読むのかシャと読むのかは文脈で判断していたわけです。しかし、外国の固有名詞などのように文脈での判断がつかない場合に、拗音(ゃゅょのことです)や促音(っのことです)を小さく書く習慣が明治期に生まれ、主にカタカナで小さいカナが用いられていました。聖書でも明治の文語訳ですでに小さいカナを使用している箇所があります。
- おどり字
前のかなと同じかなを繰り返すとき、「ゝ」というおどり字(繰り返し記号)を使用することがあります(まゝ=まま)。一応「ゝ」がひらがな用、「ヽ」がカタカナ用ということになっています。「繰り返しだが濁点がつく」という場合は「ゞ」「ヾ」を用います(はゞ=はば)。なお、直前のかなが濁点つきの場合は、「ゝ」は逆に「濁点ナシで繰り返し」という意味になり(づゝ=づつ)、濁点つきで繰り返す場合は「ゞ」を用いねばなりません(ばゞ=ばば)。もっとも濁点は昔になればなるほどオプション記号の性格が強くなる(現代では絶対に必要な場合でも打たれないことがある)ので、最終的な判断は文脈によります。
二文字以上のかな列を繰り返すときは「く」を縦長に伸ばした記号を用います(まちく=まちまち、そろりく=そろりそろり)。字形上、縦書きのときにしか用いられません。前のかな列を濁点つきで繰り返すときは「ぐ」を用いますが(しみぐ=しみじみ)、逆に濁点のついた文字列を繰り返すときに「ぐ」にする必要はありません(じめく=じめじめ)。
さらに詳しくは、踊り字-Wikipediaをご覧ください。